薬がないと不安で仕方がない

ある日、「先生、助けてください。頭痛が治らなくて。1年以上前から月に2回くらい頭痛が出てしまい、病院で処方された頭痛薬と胃が荒れないように胃薬を飲んで何とかしのいでいます。薬を飲むと症状は半減しますが、すっきり治るわけではありませんし、痛みは2日間ほど続きます。このつらい痛みと一生つき合わなければならないのかと思うと、気持ちが塞いでしまって」と女性が訴えてきました。私が治療する人には、こうした薬に頼っている人が本当に多いのです。

問診してみると、「頭痛のときは後頭部が重苦しい感じになり、目の奥が痛くて、ひどいときは横になって安静にしている」といいます。35歳の彼女は、1年前までは歯科医師として勤務していましたが、現在は大学院で修士号の取得を目指して研究に没頭する毎日です。顕微鏡やパソコンを使った作業を1日13時間ほどしていて、睡眠時間が2時間しか取れないことが週に3回もあるそうです。そんな中で、たびたび頭痛が起こり、研究が滞ってしまうというもどかしさと不安で胸が苦しくなり、吐いてしまうこともあると聞きました。彼女の姿からは、寝不足による疲労がかなり蓄積していると感じられました。

このケースは睡眠時間が短いために、頭の重みを支えている筋肉が疲弊してしまい、頭痛が発生したと考えられます。そこで、痛みが出ている顔面部と後頭部の筋肉をほぐす施術をしたところ、わずか30分で痛みが消失しました。彼女は会計窓口で、「先生の手はすごい。ゴッドハンドです!」といって帰ったそうです。

その後は週に1回施術して筋肉の過緊張状態をゆるめました。その結果、1ヵ月後には少し無理をしても、頭痛が出ない状態になりました。

治療以前は頭痛薬がないと不安でどうしようもなかった彼女ですが、今では薬ときっぱり縁が切れ、研究に没頭できているそうです。

薬はあくまでも痛みをブロックするもの

慢性頭痛を抱えた人の中には、市販の頭痛薬を服用している人がたくさんいます。これは解熱鎮痛剤と呼ばれるもので、「頭痛、生理痛、発熱時の痛みに効果的」とうたわれ、つらい症状を緩和してくれます。実際に、痛みの発生と薬が痛みを抑えるメカニズムについて、簡単に説明しておきましょう。

私たちの体は炎症を起こすと血液中にさまざまな発痛物質が増えます。たとえば、ヒスタミンもその一つであり、痛みやかゆみの原因ともいわれています。一方、神経には痛みを感じるレセプターと呼ばれるヒスタミンの受容体があります。そのレセプターにヒスタミンが届くと「痛いですよ」と脳に知らせます。頭痛薬はヒスタミンがレセプターに到達しないように先回りして、レセプターに蓋をするのです。よくテレビのコマーシャルなどで、「先回りして痛みをブロックする」といった表現が流れていますので、ご存じの人も多いのではないでしょうか。

これによって神経は痛みを感じることがありません。薬によってはヒスタミンそのものが増えるのを抑えるものもあります。

治療薬と予防薬の違いとは

一般に内科や頭痛外来のお医者さんが処方する頭痛薬には、頭痛治療薬と頭痛予防薬があります。頭痛治療薬は、今起きている頭痛に対処する薬です。ロキソニンやボルタレンをはじめ、鎮痛剤と呼ばれるものが多数ありますが、それらは痛みを感じるメカニズムを遮断することを目的につくられています。痛みを感じなくさせる痛み止めです。

一方の頭痛予防薬は、頭痛が起きないようにする薬です。あらかじめ、頭痛が出ていないときでも服用するもので、ここが治療薬と大きく異なります。予防薬を処方する目的は、痛みが出るメカニズムそのものを働かせないことです。

また、市販の頭痛薬も痛み止めですが、処方薬に比べて作用がおだやかです。

最大の問題点は市販薬もお医者さんに処方される薬も「痛みを抑える、予防する」ことに主眼が置かれていて、「その痛みの元を断つ」ことは考えられていないことです。つまり、薬はあくまでも対症療法であり、根本治療とはなりえないのです。

常用すると薬物依存になる!?

慢性頭痛のために、鎮痛剤や予防薬を服用している人の中には、薬の副作用による頭痛を発生させていることがあります。長期にわたって薬を服用していると、毎日のように頭痛や嘔吐に悩まされるようになってしまいます。何度も服用すると薬の効いている時間が短くなりますから、薬が手放せない状態になります。これを「薬物乱用頭痛」といいますが、今、このような人たちが増えています。

では、なぜ薬を飲み続けると薬物乱用頭痛になるのかといいますと、じつはまだそのメカニズムは解明されていません。しかし、いろいろな説がある中でも有力なのは、1つの成分を使い続けているとレセプターが反応しなくなるという説です。

同じ薬を長期間飲み続けていると、ある日突然、痛みを止める薬の成分をレセプターが邪魔者と認識するようになってしまいます。そして、レセプターは血液中の痛み物質であるヒスタミンを捕まえるために、体を勝手に変化させます。この変化によって、これまで効いていた薬の成分は効力を発揮しなくなります。こうしてそれまで飲んでいた薬が効かなくなりますから、担当医から薬を替えるようにすすめられます。これが悪循環となり、自分でも気づかない間にどんどん強い薬に移行してしまうのです。

薬は処方の半分でも十分効く

薬物乱用頭痛を防ぐためには、薬を飲む人は常用にならないように、もっと意識して自分自身で管理すべきだと思います。

私は、人によっては、薬の服用量を減量しても効果はあると考えています。なぜなら、人には体格差がありますし、薬の効果が出やすい人もいるからです。実際に、処方薬をもらっている患者さんの中には「薬が効き過ぎて怖い」と訴える人もいます。

しかし、薬物乱用頭痛の人の場合、急に薬の服用を中止すると、離脱症状といって激しい頭痛が生じることがあります。そのため当院では、薬を処方している医師に服用量を半分に減らしてもらうように相談することを、患者さんに提案しています。

問題がなければ、さらに服用量を4分の1に減らしてもらうように再度アドバイスします。それで痛みが生じなかった場合、「痛みが出てから飲んでも間に合いますよ」と患者さんに伝えると、薬なしでも過ごせるようになります。

即効性がある薬は、最低限で使うべき

薬に頼り過ぎないことは重要ですが、そうはいっても、頭が割れるような激しい頭痛が起こっているときは、我慢や気合と根性だけで乗り越えられるものではありません。

通常の頭痛とは明らかに痛みの度合いが違う場合や、痛みがどんどん強くなる場合は、二次性頭痛(25ページ)のおそれがありますから、救急車を呼ぶなどの対処をしましょう。病院で脳腫瘍や脳出血、くも膜下出血などの疾患があるために起こる二次性頭痛かどうかを確認してもらうことが大事です。

その疑いがない場合は、安静にして薬を飲んでつらい痛みを抑えることです。

薬には即効性がありますから、必要なときは最低限で使うべきと考えています。ところが、今の医療機関の多くは、長期にわたり大量の薬を処方していることがあり、そのため、薬漬けになってしまっている患者さんも少なくありません。これは薬物乱用頭痛にもつながります。

私は頭痛薬そのものを否定しているわけではありませんし、薬による対症療法が悪いといっているわけでもありません。つらい痛みから解放されなければ、夜眠れなくなりますから、翌日の仕事や勉強に支障が生じてしまうかもしれません。ですから、対症療法で痛みを緩和することは必要です。

しかし、本来、頭痛治療薬というのであれば、痛みを抑える鎮痛剤ではなくて、頭痛が完治する薬であるべきだとも思っています。

考え方をさらに一歩進めて、人生のパフォーマンスを低下させないためには、頭痛そのものが起こらないような体づくりをすることが最も大切なはずです。しかし、今の頭痛治療にはこの部分が抜け落ちています。

脳にトラブルが生じたせいで起こる二次性頭痛は除いて、頭痛治療の最終的な目標は「薬なしで生活できること」なのです。

一般的な頭痛分類

ある統計報告によると、日本人の15歳以上の約3900万人が慢性頭痛を抱えているといわれています。これは日本人全体の約39%に相当する数字で、その内訳は、緊張型頭痛が2200万人、片頭痛は840万人、その他の頭痛が900万人といわれています。

一般的に頭痛は大きく二つに分類されます。先に述べた二次性頭痛以外の、これら緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛、混合型頭痛などは一次性頭痛と呼ばれています。その特徴を表で簡単にまとめましたので、見てください。

片頭痛と群発頭痛も筋肉に起因する

つらい頭痛がなぜ起こるのかといいますと、定説と異なり、私はどの頭痛も「筋肉に起因する」と考えます。

一次性頭痛の中でも、緊張型頭痛はおもに頭部と頸部や肩部の筋肉が縮むことに起因するといわれています。

一方、片頭痛や群発頭痛は神経に起因するといわれています。しかし、私は片頭痛も群発頭痛も「筋肉に起因する」と考えています。そう考えないと説明がつかないことが多いからです。

一般的には、片頭痛は三叉神経によって起こるといわれています。顔面の皮膚、口や鼻の中の粘膜、咀嚼筋などを支配する三叉神経が、過度に興奮することにより、脳血管のまわりの神経が炎症を起こし、頭痛が現れるという説です。

しかし、片頭痛と診断されている人では、むしろそれらと関係のない部位に、円形のスポットで痛みが出ることも多いのです。三叉神経の領域だけに、頭痛が起こる人はほとんどいません。ですので、私は三叉神経説だけでは片頭痛を説明しきれないと考えています。

また、片頭痛と診断されている患者さんにたずねると、医師から「緊張型ではない、群発でもない、では片頭痛だ」と診断されたケースも少なくないようです。片頭痛は便利な病名なのです。

左右のどちらか片方に起こるから片頭痛と診断される患者さんもいます。実際にそのような患者さんを施術すると、左右の筋肉のかたさの違いが顕著です。

たとえば、右側頭部に片頭痛がある人には、右の首や肩の筋肉が左に比べて明らかに緊張し、こりかたまっているケースが多く見られます。しかも、そのこりかたまっている部分を圧迫すると頭痛の症状が再現され、右側頭部に痛みが発生します。そして、その部分のこりを取り除くと頭痛は消えてしまいます。

群発頭痛についても同様に、特定の筋肉に異常な緊張が見られますが、それらをほぐす治療を継続的に行うことで、頭痛の発作が軽減、または消失します。

このことから、緊張型頭痛だけでなく、片頭痛や群発頭痛も筋肉が原因となっていると考えることができるのです。実際に、当院ではこの考えに基づいて頭痛治療を行い、多くの患者さんがつらい頭痛から解放されています。

筋肉の緊張が頭痛を引き起こしている

私は、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛、そしてそれらを併せもつ混合型頭痛が起こる大きな原因の一つは、首、肩、背中、頭、顔面などの筋肉が異常に緊張することにあると考えています。

前に述べたように、これらの頭痛持ちの人には筋肉の異常な緊張が見られ、その緊張をほぐすことで頭痛が改善するという成果を得ているからです。

また、ほとんどの人は、頭痛以外にも、肩こりや首こり、顎が疲れる、首の前面がつらい、背中や肩が痛いなど、筋肉の緊張からくる自覚症状をもっています。

そこで本書では、今までの頭痛の本とは異なって、二次性頭痛を除いた、すべての一次性頭痛(緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛、混合型頭痛など)を筋緊張性頭痛ととらえ、単に頭痛と表記して説明することにします。

なぜ筋肉が緊張すると頭痛が起こるのかは、残念ながらまだ解明されていません。

しかし、私は、患者さんを施術してきた実体験から、筋肉の緊張が頭痛の原因であると確信しています。

1つの症例で説明しましょう。小学4年生の女の子の例です。4歳からバイオリンを習っていて毎日1時間ほど練習しているそうですが、3年ほど前から週に2回くらい出現していた頭痛が、最近になって増えてしまい、一日中痛みが引かずバイオリンの練習も休みがちになってしまいました。左の側頭部を叩かれるような痛みや目の奥に締めつけられる感じがあり、授業中に発生すると保健室で寝ているそうです。周囲の友だちや父親からは仮病と疑われてしまい、学校も休みがちだといいます。

話を聞いていた私は、バイオリンを弾く姿勢に問題があると直感しました。首を左に傾け、両肩を広げて弾く姿勢によって、左首と肩まわりの筋肉が緊張した状態になり、頭痛が発生したと考えたのです。1週間に1回、僧帽筋や胸鎖乳突筋、脊柱起立筋群をゆるめる施術をしたところ、徐々に発生頻度が少なくなり、痛みも弱くなり、3週目には発生しなくなりました。

なぜ筋肉が収縮すると痛みが出るのか

このように私は、頭痛は筋肉の痛みによるものととらえていますが、痛みの原因は筋肉がのびる、切れる、縮むことにあります。私たちの体は関節をのばし過ぎると捻挫しますし、筋肉が切れると肉離れになります。足がつるという人がいますが、これは筋肉が縮んだために起こった現象です。このように筋肉が縮んだときに出る痛みは収縮痛と呼ばれ、とても痛いものです。

じつは収縮痛のメカニズムはまだ解明されていません。現代医学の中でも、筋肉の分野はまだまだ未解明のことが多いのです。そのため収縮痛も数多の説があります。

なかでも、筋肉の細胞に注目したフィラメント説が有力です。私たちの体は、筋肉細胞がスライドすることによって、筋肉がのびたり縮んだりを繰り返し、動くことができます。しかし、このスライドがうまくできず縮こまったままになってしまうと筋肉は不自然な状態になっていますから、痛みが発生するというものです。

また、筋肉はゴム紐のような状態でのびたり縮んだりしていると想像している人が多いと思いますが、じつはスポンジのような状態で収縮します。筋肉が収縮することによって、そのスポンジの中にある細かい神経が圧迫されて痛みを感じるのではないかという説もあります。

筋収縮を起こしやすいのは、慢性的な睡眠不足の人、薬を常用している人、アルコールの飲み過ぎなどで肝機能が弱っている人、運動のし過ぎと運動不足の人、水分摂取量の少ない人、ミネラル分の補給が少ない人に多いともいわれています。