「頭痛ゾーン」と「頭痛誘発筋」

「頭痛ゾーン」とは、聞き慣れない言葉だと思いますが、これは私の造語です。私は長年たくさんの頭痛持ちの患者さんを治療してきて、頭痛が発生する部位は、①頭頂部ゾーン、②側頭部ゾーン、③額や顔面ゾーン、④後頭部ゾーンの大きく4つに分けられることに気づきました。

さらに、すでに第1章で頭痛は筋肉の放散痛だと述べましたが、頭痛が起きるときには「頭痛誘発筋」がかかわっていると考えています。これも私の造語の一つですが、放散痛を引き起こしている筋肉のことです。

「頭痛誘発筋」は20種類以上あります。なかでも、これまでの治療の成果から、基本的に痛みを引き起こすメインの筋肉として、僧帽筋、脊柱起立筋群、多裂筋と回旋筋、臀筋、大胸筋、胸鎖乳突筋、斜角筋、肩甲挙筋の8つがあることがわかりました(頭痛誘発筋とおもな筋肉については、49ページ参照)。さらに、この8つは、すべての頭痛ゾーンにかかわっていることも突き止めました。

前ページの図は、臨床例から分類した頭痛ゾーンとおもな頭痛誘発筋です。

8つの頭痛誘発筋のほかに、①頭頂部ゾーンは、前頭筋、咬筋群、表情筋群、後頭下筋群(外側)、②側頭部ゾーンは、側頭筋、咬筋群、後頭下筋群(内・外側)、耳介筋、③額や顔面ゾーンは、表情筋群、広頸筋、頭・頸板状筋、④後頭部ゾーンは、後頭筋、後頭下筋群のすべて、頭・頸板状筋が、頭痛を引き起こしている犯人と考えられます。

頭痛誘発筋は単独で痛みを引き起こすこともありますが、ほとんどのケースでは複数の筋肉がかかわっています。また、1つの筋肉が複数の頭痛ゾーンにまたがって痛みを引き起こしていることもあります。

こんな症状の人は「頭痛ゾーン」で治る

頭痛に悩んでいる人は、次にあげる項目にマークを入れてみてください。

 

□頭を締めつけられているような重苦しい痛みがある。

□肩こりが強くなると、目の奥や顔の表面に痛みが発生する。

□後頭部全体が重苦しい。

□頭頂部が痛い。

□側頭部やこめかみの周辺が痛い。

□月経前と月経中に頭痛がひどくなる。

□アルコールを飲むと頭痛がする。

□同じ姿勢を長時間続けていると頭痛が起こる。

□にぎやかな場所で大声を出したあとに頭痛がする。

□音や光の強い場所にいたあとに頭痛が起こる。

□飛行機に乗ったときや、その前後に激しい頭痛に襲われる。

□頭痛薬を毎日もち歩いている。

 

1つでもマークがついた人は、頭痛ゾーンによる治療がおすすめです。

頭痛ゾーンでは、どこの筋肉が今起きている頭痛の原因となっているかがわかります。その筋肉に対して効果的な「頭痛解消ストレッチ」を行ったり、生活習慣を見直すことによって、症状は確実に改善されます。

手技療法が有効な理由

「頭痛ゾーン」についてご理解いただけたら、次はこりかたまった筋肉の緊張を効果的にほぐす方法について説明しましょう。

通常、整体やマッサージ院などで行われている筋肉をほぐす手法では、全身に数百も存在するといわれる筋肉の中から、特定の筋肉を一つずつ狙ってほぐすことは基本的にはしません。もっと大まかに、頸部、背部、腰部といった部位で区切って考えるのが一般的です。たとえば、背中がこってつらいという患者さんに対して、背中全体をなでたり、押したり、もんだりすることにより、血行を改善させて筋肉をゆるめます。また、東洋医学でいうところのツボ(患部の急所)を刺激することによってゆるめる方法もあります。

一方、私が考案した「手技療法」は器具を用いたり薬に頼ったりせず、同じく手を使って行いますが、その理論は大きく異なります。ポイントは2つあります。まず1つ目は、痛みやこりなどの症状がある部位を、全体的に漫然と治療するのではなく、症状を引き起こしている筋肉を細かく具体的に特定して、その筋肉を狙い撃ちすることです。2つ目は、特定した筋肉を治療するときに、かたくなっている箇所だけでなく、その筋肉を端から端までていねいに刺激してゆるめることです。同じ背中の治療を行っても、この2つのポイントを押さえた手技療法なら、はるかに高い効果を上げることができます。

頭痛誘発筋をゆるめ、頭痛を劇的に緩和する

私の手技療法の理論はシンプルですが、実践するには全身の筋肉に対する専門的な知識と、その筋肉を指や手根(72ページ)で正確にとらえるための訓練が必要です。

たとえば、頭痛を誘発している背中の筋肉をほぐすときのことを考えてみましょう。背中にはいくつもの筋肉が、少しずつ違う位置に、何層にも重なって存在しています。その中から、頭痛を誘発している特定の筋肉を見つけ出すために、問診、動作チェック、触診を行います。問診では、自覚症状のほか、いつも右側を向いてテレビを見ている、デスクワークが多いなどの生活習慣も聞きます。これによって、酷使されているであろう筋肉が推測できます。

次に、動作チェックによって、関節の動く範囲の左右差などを確認します。これによって、関節の動きを制限している筋肉、つまり過度にかたくなっている筋肉を割り出すことができます。

最後に、実際に触診で筋肉に細かく触れてかたさの違いや硬結部(こりかたまっている部分)を確認することで、どの筋肉をゆるめる必要があるかを特定するのです。

そして、特定した筋肉を、硬結部だけでなく、端から端までしっかり刺激してゆるめます。ほかにも、その筋肉が存在する位置や深さによって押す角度や深さ、回数といった刺激の量、患者さんのポジションなど、多くのことに細かく気を配りながら、最高の結果を出すように刺激を加えます。これにより、頭痛誘発筋を的確にゆるめ、頭痛を劇的に緩和することができるのです。

手技療法による頭痛治療には専門的な知識と経験が必要ですが、それと近い効果を患者さんが自宅で出せるようにと考えたのが、本書で紹介する「頭痛解消ストレッチ」です。筋肉についてよく知らなくても、頭痛誘発筋を効果的にゆるめることができるように工夫してあります。ぜひ実践して、頭痛のない生活を取り戻してください。

「頭痛ゾーン」別、原因と治療法

①頭頂部ゾーン

姿勢の悪い(顎を突き出して座る)人、猫背の人、体がかたい人、細かい作業をしている人などに頭痛が多発するゾーンです。

体がかたい人は、全身の可動域が狭いため、筋肉がのびたり縮んだりする範囲も狭くなります。筋肉には緊張と弛緩を繰り返すことによって血液を全身へめぐらせる役割があります。これを医学用語で「筋ポンプ作用」といいますが、この作用が弱いために、血液のめぐりも弱くなり、このゾーンに頭痛が発生しやすいのです。

また、頭頂部ゾーンの頭痛は男性に比べて女性に多く見られるのも特徴です。これは、男性に比べて女性は首の後ろの筋肉である頭・頸板状筋や後頭下筋群が弱いせいだと考えられます。そのため、放散痛として頭頂部に締めつけられるような痛みや突き刺されるような痛みが円形のスポットで出ます。

②側頭部ゾーン

姿勢の悪い人、顎関節症を患っている人、精神的なストレスを抱えている人、ショルダーバッグのかけ方が悪い人、使っている枕に問題がある人などに頭痛が多発するゾーンです。

最近は、女性の間で大きなショルダーバッグが流行しているようですが、あなたは何でもポイポイとバッグに詰め込んでいませんか。この状態を続けていると、重たいバッグとは反対側に体が傾くようになってしまいます。58ページのコラムも参考にして、正しい姿勢を保つように心がけてください。

このゾーンの人は胸鎖乳突筋、斜角筋、側頭筋の放散痛が出ることが多いのです。胸鎖乳突筋も斜角筋も首を横に倒したり傾けたりするときに使う筋肉ですから、生活習慣の中で影響を受けやすいのです。

また、枕は寝違えを招く原因の一つでもありますので、第5章を参考にして、自分に合ったものを使うようにしましょう。

③額や顔面ゾーン

歯並びや噛み合わせに問題がある人、顎関節に異常のある人、片側だけを使って噛む癖がある人や歯ぎしりをする人、鼻炎や副鼻腔炎、蓄膿症を患っている人などに多発するゾーンです。

顔に痛みがある場合は、まずは整形外科や耳鼻科に行くと思いますが、多くのケースは脳神経内科を受診するようにすすめられます。そして、顔面神経痛や三叉神経痛と診断される人が多いのですが、じつはこれも頭痛の一種なのです。

また、頭痛と歯の痛みは深くかかわっています。たとえば、顔面ゾーンの痛みを訴える患者さんには、虫歯の人も多いのですが、この場合は虫歯を治療すれば痛みは消えます。一方で、虫歯はないのに歯の痛みを訴える患者さんがいます。この場合は、顎の放散痛のことが多いので、顎の周囲の筋肉をゆるめてあげると痛みはスパッと消えます。

④後頭部ゾーン

仕事の重責などで過緊張状態が続く人、上がり性の人、ストレスを抱えやすい人、慢性的な運動不足の人、一日の中でデスクワークの多い人、眼精疲労の人、睡眠不足の人などに多発するゾーンです。

このゾーンはストレスとかかわりが深いところです。私たちの脳はストレスをキャッチすると、脳神経から直接支配できる僧帽筋に情報を伝えます。僧帽筋は背中の大きな筋肉であり、影響力があります。この筋肉は後頭部についていますから、放散痛として後頭部ゾーンに頭痛が生じてしまうのです。

患者さんの中には、頭痛ではないけれど、気疲れして背中が痛いという人もいます。気疲れが表れてしまう背中は、心の顔ともいえます。

頭痛には体からのメッセージが隠されている

じつは、私たち人間の体は突き詰めて観察していくとまだまだわからないことが多いのです。前に述べましたが、痛みのメカニズムは調べれば調べるほどわからなくなります。

しかし、私は痛みが出るということは、「そこに何かありますよ」というお知らせであり、体からのメッセージだと思っています。

頭痛の場合は、二次性頭痛と呼ばれる脳腫瘍や脳出血、くも膜下出血などの疾患が隠れていることがあります。そのほかにも休息不足や寝不足、眼精疲労、過度の精神的ストレスの蓄積、運動不足、姿勢の乱れ、栄養バランスの悪化や水分不足、冷えなど、目には見えない危険信号を体がきちんととらえて、私たちに教えようとしてくれているのです。

だから、このメッセージを無視したり、薬などの対症療法で抑え込もうとすることは、本来の危険信号を見逃すことになり、大きな病に進行させてしまう危険性もあります。「頭痛くらい」と甘く見てはいけません。頭痛は大切なメッセージを送ってくれているのです。痛みをきちんと感じ取って原因を突き止めることが、健康な体を維持するための秘訣だと考えています。

頭痛コップの水かさを低くしておく

あなたは「コップ理論」という言葉を聞いたことはありませんか。これは心理学の理論の一つといわれていますが、頭痛治療にも応用できる重要な考え方だと私は思っています。ストレスを水にたとえて、自分の中であふれさせないようにしようという考え方で、ストレスの上手な逃がし方ともいえるものです。透明なコップに少しずつストレスという名の水が入っていく様子を想像してください。

健康な状態のときはコップの水が少ないですから、問題はありません。ところがストレスが重なると、それに比例するようにコップの水は増えていきます。そして、ストレスが極限に達するとコップの水かさもなみなみといっぱいになってしまいます。それでもがんばり続けていると、ちょっとしたストレスが引き金になってコップの水はあふれ出てしまい、頭痛が発生するのです。

ストレスには心因性と外因性の2つがあります。心配事や不安感などといった心因性のストレスは、体の自律神経系の機能が低下することによって頭痛が発生します。

一方、外因性ストレスは、筋肉の疲労による筋収縮、パソコンなどによる眼精疲労といった生活習慣が原因となって頭痛が起こります。

本当の意味で病気を根本から治す(根治)ためには、両方のストレスの原因を根本から解消しなくてはなりません。

私たちが日常生活を送るうえで、これは無理な相談です。たとえば、子育てのストレスを抱えているお母さんが、育児をやめられるかといったら、それはできませんから。

しかし、ストレスによる水かさは、頭痛誘発筋を弛緩させることで簡単に下がります。そのためには第3章で紹介する頭痛マッサージ法や頭痛ストレッチ法が有効です。これにより頭痛を発生させているメカニズムの流れを断ち切ることになりますから、頭痛は治ります。

さらに、ストレスにさらされても、頭痛が出ない体になることが大事なのです。

たとえば、仕事でパソコンを長時間使っていて眼精疲労があり、それが原因で頭痛が発生するとわかっていても、仕事は簡単にはやめられません。そこで、仕事の内容を変えられないのであれば、コップそのものを大きくすればいいのです。コップが大きくなれば、頭痛の原因とされるさまざまなストレスに見舞われても水があふれることはないので、頭痛は起こりません。頭痛を誘発する筋群をゆるめたり、鍛えたりすることが重要なのです。そのための予防策として第3章の頭痛予防筋トレ法が有効ですし、生活習慣を見直す必要もあります。

ショルダーバッグのかけ方で頭痛は楽になる

私たちの体は重たい荷物をもったとき、持ち手と反対側に重心がかかります。たとえば、重たいショルダーバッグを右肩にかける人は、左に重心がかかりますから、無意識のうちに頭をまっすぐにしようとして、左肩が下がってしまいます。そのため、左側面の筋肉に障害が出やすいのです。

重たい荷物やショルダーバッグは、いつも同じ側でもつのはやめましょう。左右にバランスよく分散してあげることが大事なのです。重たい荷物をもつときは、両肩に同じように重みのかかるリュックサックを使うのがおすすめです。

ショルダーバッグを使うときは、ベルトは肩の端から約3㎝のところ、鎖骨の外側3分の1を通過するようにかけるのがコツです。鎖骨と肩甲骨の出っ張りがありますので、慣れると違和感もありません。

また、ショルダーバッグを斜めがけにする人は多いようですが、この場合もベルトは、背中から肩にかけて広がる僧帽筋の上は避けて、かけてください。僧帽筋はとても大きな筋肉ですから、ベルトがずっと当たっていて疎血(血液が行かなくなる)状態が続くと、苦しく感じますし、肩こりがひどくなります。また、先述したとおり、僧帽筋を圧迫することは、頭痛の原因にもなるのです。