手技療法が有効な理由

「頭痛ゾーン」についてご理解いただけたら、次はこりかたまった筋肉の緊張を効果的にほぐす方法について説明しましょう。

通常、整体やマッサージ院などで行われている筋肉をほぐす手法では、全身に数百も存在するといわれる筋肉の中から、特定の筋肉を一つずつ狙ってほぐすことは基本的にはしません。もっと大まかに、頸部、背部、腰部といった部位で区切って考えるのが一般的です。たとえば、背中がこってつらいという患者さんに対して、背中全体をなでたり、押したり、もんだりすることにより、血行を改善させて筋肉をゆるめます。また、東洋医学でいうところのツボ(患部の急所)を刺激することによってゆるめる方法もあります。

一方、私が考案した「手技療法」は器具を用いたり薬に頼ったりせず、同じく手を使って行いますが、その理論は大きく異なります。ポイントは2つあります。まず1つ目は、痛みやこりなどの症状がある部位を、全体的に漫然と治療するのではなく、症状を引き起こしている筋肉を細かく具体的に特定して、その筋肉を狙い撃ちすることです。2つ目は、特定した筋肉を治療するときに、かたくなっている箇所だけでなく、その筋肉を端から端までていねいに刺激してゆるめることです。同じ背中の治療を行っても、この2つのポイントを押さえた手技療法なら、はるかに高い効果を上げることができます。

頭痛誘発筋をゆるめ、頭痛を劇的に緩和する

私の手技療法の理論はシンプルですが、実践するには全身の筋肉に対する専門的な知識と、その筋肉を指や手根(72ページ)で正確にとらえるための訓練が必要です。

たとえば、頭痛を誘発している背中の筋肉をほぐすときのことを考えてみましょう。背中にはいくつもの筋肉が、少しずつ違う位置に、何層にも重なって存在しています。その中から、頭痛を誘発している特定の筋肉を見つけ出すために、問診、動作チェック、触診を行います。問診では、自覚症状のほか、いつも右側を向いてテレビを見ている、デスクワークが多いなどの生活習慣も聞きます。これによって、酷使されているであろう筋肉が推測できます。

次に、動作チェックによって、関節の動く範囲の左右差などを確認します。これによって、関節の動きを制限している筋肉、つまり過度にかたくなっている筋肉を割り出すことができます。

最後に、実際に触診で筋肉に細かく触れてかたさの違いや硬結部(こりかたまっている部分)を確認することで、どの筋肉をゆるめる必要があるかを特定するのです。

そして、特定した筋肉を、硬結部だけでなく、端から端までしっかり刺激してゆるめます。ほかにも、その筋肉が存在する位置や深さによって押す角度や深さ、回数といった刺激の量、患者さんのポジションなど、多くのことに細かく気を配りながら、最高の結果を出すように刺激を加えます。これにより、頭痛誘発筋を的確にゆるめ、頭痛を劇的に緩和することができるのです。

手技療法による頭痛治療には専門的な知識と経験が必要ですが、それと近い効果を患者さんが自宅で出せるようにと考えたのが、本書で紹介する「頭痛解消ストレッチ」です。筋肉についてよく知らなくても、頭痛誘発筋を効果的にゆるめることができるように工夫してあります。ぜひ実践して、頭痛のない生活を取り戻してください。

「頭痛ゾーン」別、原因と治療法

①頭頂部ゾーン

姿勢の悪い(顎を突き出して座る)人、猫背の人、体がかたい人、細かい作業をしている人などに頭痛が多発するゾーンです。

体がかたい人は、全身の可動域が狭いため、筋肉がのびたり縮んだりする範囲も狭くなります。筋肉には緊張と弛緩を繰り返すことによって血液を全身へめぐらせる役割があります。これを医学用語で「筋ポンプ作用」といいますが、この作用が弱いために、血液のめぐりも弱くなり、このゾーンに頭痛が発生しやすいのです。

また、頭頂部ゾーンの頭痛は男性に比べて女性に多く見られるのも特徴です。これは、男性に比べて女性は首の後ろの筋肉である頭・頸板状筋や後頭下筋群が弱いせいだと考えられます。そのため、放散痛として頭頂部に締めつけられるような痛みや突き刺されるような痛みが円形のスポットで出ます。

②側頭部ゾーン

姿勢の悪い人、顎関節症を患っている人、精神的なストレスを抱えている人、ショルダーバッグのかけ方が悪い人、使っている枕に問題がある人などに頭痛が多発するゾーンです。

最近は、女性の間で大きなショルダーバッグが流行しているようですが、あなたは何でもポイポイとバッグに詰め込んでいませんか。この状態を続けていると、重たいバッグとは反対側に体が傾くようになってしまいます。58ページのコラムも参考にして、正しい姿勢を保つように心がけてください。

このゾーンの人は胸鎖乳突筋、斜角筋、側頭筋の放散痛が出ることが多いのです。胸鎖乳突筋も斜角筋も首を横に倒したり傾けたりするときに使う筋肉ですから、生活習慣の中で影響を受けやすいのです。

また、枕は寝違えを招く原因の一つでもありますので、第5章を参考にして、自分に合ったものを使うようにしましょう。

③額や顔面ゾーン

歯並びや噛み合わせに問題がある人、顎関節に異常のある人、片側だけを使って噛む癖がある人や歯ぎしりをする人、鼻炎や副鼻腔炎、蓄膿症を患っている人などに多発するゾーンです。

顔に痛みがある場合は、まずは整形外科や耳鼻科に行くと思いますが、多くのケースは脳神経内科を受診するようにすすめられます。そして、顔面神経痛や三叉神経痛と診断される人が多いのですが、じつはこれも頭痛の一種なのです。

また、頭痛と歯の痛みは深くかかわっています。たとえば、顔面ゾーンの痛みを訴える患者さんには、虫歯の人も多いのですが、この場合は虫歯を治療すれば痛みは消えます。一方で、虫歯はないのに歯の痛みを訴える患者さんがいます。この場合は、顎の放散痛のことが多いので、顎の周囲の筋肉をゆるめてあげると痛みはスパッと消えます。

④後頭部ゾーン

仕事の重責などで過緊張状態が続く人、上がり性の人、ストレスを抱えやすい人、慢性的な運動不足の人、一日の中でデスクワークの多い人、眼精疲労の人、睡眠不足の人などに多発するゾーンです。

このゾーンはストレスとかかわりが深いところです。私たちの脳はストレスをキャッチすると、脳神経から直接支配できる僧帽筋に情報を伝えます。僧帽筋は背中の大きな筋肉であり、影響力があります。この筋肉は後頭部についていますから、放散痛として後頭部ゾーンに頭痛が生じてしまうのです。

患者さんの中には、頭痛ではないけれど、気疲れして背中が痛いという人もいます。気疲れが表れてしまう背中は、心の顔ともいえます。